2016年1月13日
PUSHIM NEW ALBUM『F』全曲解説&ライナーノーツ公開!
昨年秋にレコード会社を移籍し、自身のレーベル「Groovillage」を立ち上げたPUSHIMが、およそ3年ぶりとなる通算9枚目のアルバム『F』を完成させた。クイーン・オブ・レゲエの異名を取り、レゲエを主戦場にする彼女だが、ここ数年はビルボードライブやブルーノートといった大人の社交場でもマイクを握り、浜離宮のクラシックホールでアコースティックライブを開催。昨年はヒップホップバンド、韻シストとの共演曲「Don’t stop」を発表するなど、活動の幅を拡げてきた。今回のアルバムもそんな姿勢が反映された一枚。盟友HOME GROWNとの鉄板レゲエチューンで本陣を固めつつ、ディスコ、ソウル、ヒップホップ、ジャズ、さらには爽快なロック調からJ-POP的なミッドまで、さまざまなグルーヴを体現。歌詞も甘酸っぱい片思いや胸を焦がす遠距離恋愛、友愛、家族愛、人生ガイド、反戦ソングに初めての結婚ソングなど、多岐に渡るテーマを綴り、「タフでストロングなレゲエシンガー」というイメージだけでは括れないPUSHIMの多彩な魅力を余すところなく伝えている。
特に本作で注目すべきはラブソングが圧倒的に増えたこと。「いろんなことが同時に重なって、人生でいちばん辛かった時期に作った」という前作『IT’S A DRAMA』は、人生の闘いを描いた曲が多いアルバムだった。歌の主人公たちは痛みや悲しみ、不安を抱え、モノクロのジャケット写真が示すように、どこか哀愁を帯びたムードが全体的に横たわっていた。しかし、「この3年間の気持ちの変化が歌に反映された」と語る本作のムードは晴れやかでピースフル。失恋ソングは1曲もないし、すべての曲が幸せを求める感情から生まれていて、いろいろなカタチの愛があふれだす。
「今回のアルバムは女臭いと思うんです。ラブソングも多いし、3年の間に恋心もあったし。あと、無理して“レゲエつくろう”って思わなかったんですよ、これで終わりじゃないわけだから。軸に『Feel It』と『People In The Shadow』、早い段階でレコーディングを終えていた『Keep Peace Alive』があったんで、あとは何でもできると思ったんですよね。私はレゲエだけじゃなく、グルーヴという見えないうねりがある音楽が大好きやし、それを歌える自負もある。だからトラックを聴いて“これ、ええやん”と思ってメロディーがパッと出たものを進めて行ったんです。1曲1曲、ひらめきと思いつきを大事にして作っていきました」
アルバムタイトルの『F』は、アルファベットのFから始まる前向きな言葉の象徴。Familyに支えられ、Friendsと共に、グルーヴをFeelしながら、FreeなスタイルとFreshな気持ちでつくった、FantasticでFavoriteな曲たち。それが集まっているということだ。さらにFにはこんな意味も含まれている。
「アルバムの制作期間中にForty(40歳)になったんです。あと、Aから順に片手で指を折っていくと、Fは6番目だから折り返し地点になる。だから、これが人生のターニングポイントっていう意味もあって。要は、全体的にFuckin’ Greatなアルバムっていうことです(笑)」
そんな超イケてるアルバムを携えて、4月から全国12ヶ所をめぐるツアーに出発。HOME GROWNを従え「楽しい、人間性のあるライブを見せたい」と意気込む。また、新レーベルGroovillageについては「ジャンルにとらわれず、いい音楽、いいグルーヴを提供していくことをめざして」活動。ゆくゆくは「ミュージシャンだけじゃなく、アーティストと呼ばれる人たちの集団にできれば」と語る。「このアルバムを作ったことで次作に向けての意欲も出てきた」と笑顔を見せたPUSHIM。彼女の輝かしいFutureは、Fantasticなこのアルバムからいよいよ始まる。
猪又 孝(DO THE MONKEY)
PUSHIM『F』全曲紹介
Feel It
以前からMUROくんと「曲をつくりたい」という話をしていて、MUROくんとやるんだったらディスコレゲエが面白いんじゃないかということで作ったクラブチューン。この曲で伝えたかったのは、日々の中でいろんなことを感じることが大事だし、そうして「今、生きてる」っていうことを感じてみて、っていうこと。辛いこととか不甲斐ないこととか毎日いっぱいあるけど、そんなときはこの曲を聴いて何も考えずに踊ってハジけてみて欲しいです。
さすらい者 ~I’m on your side~
HOME GROWNのTancoさんに「『Feel It』の次に合うレゲエの曲」とオーダーをしてトラックを作ってもらいました。それを聴いたときに砂漠のような光景が浮かんだので、砂漠を歩いてる感じを人生になぞらえて歌にしようと。大きく言えばこれもラブソング。生きていくのが下手な人、不器用な人に向けて「大丈夫、私はあなたの味方です」って歌ってる。
A Little Love
これは恋の始まりを描いた大人の胸キュンソング。久々の恋心に戸惑いを感じながらもドキドキしてる気持ちを書きました。メロディーもキャッチーでトラックも明るい。我ながらずいぶん可愛らしい歌つくったなぁと思います。私のファンは20代後半から30代、40代が多いので、この気持ちはすごくわかってもらえると思います。
MATTAKU feat. Shyoudog(韻シスト)
韻シストとは去年「Don’t stop」を作って仲良くなったし、ベースのShyoudogくんの歌声も大好きだから、男と女の攻防みたいなラブソングを作りたいなと思って彼にお願いしたんです。内容は朝帰りする彼氏を待つ彼女の話で、彼氏の調子の良い言葉に、ついつい甘やかしちゃう女性を書いてる。歌詞の「まったく」には、怒りと諦めと許しと愛情、いろんな気持ちが入り交じってます。
People In The Shadow
テーマは人間の影の部分。裕福だからといって幸せじゃない、いい人に見えても隠してる部分やダメな部分があるっていうことを歌にしました。そうして、自分の中にある善と悪どっちで生きてく?っていう投げかけをしてるんです。DVを受けてる人や虐待されてる人に向けた救いの歌という面もあります。人間、闇を抱えて卑屈になっていくと、だんだん顔がブサイクになっていくもの。みんなそうならないようにって思います。
Keep Peace Alive
反戦ソングです。戦争が遠い国の話じゃなくなってきたという不安があるし、大切な人を失った遺族の辛さを想像して書きました。結局、戦争は家族がやられた憎しみが報復となって、またそれにやり返してという繰り返し。自分がその状況下に置かれて、愛する人や子供が死ぬことを考えたら戦争なんてできへんよね、っていうことを伝えたかった。そのためには自分たちで声を上げて時代に参加していくことが必要。そういうメッセージも込めてます。
A Place In The Sun
昔から大好きなスティーヴィー・ワンダーの曲。去年10月に韻シストとのコラボライブをやったとき、何かカバーをやりたいと思って選んだ曲で、そのときのアレンジを元にレコーディングしました。歌詞の「これからまだまだ行くよ」っていうメッセージが移籍後の自分の気持ちとマッチしたし、陽の当たる場所を死ぬまでに見つけるんだっていう歌詞も好きです。
The Original Love Song
ウェディングソングを作ってみないかというスタッフの発案で作りました。私は結婚式によく歌いにいくんで、幸せいっぱいの新郎新婦を隣で見ているような視点で書きました。この曲に限っては、Fiancé(フィアンセ)の「F」もありますね。
Welcome To My Village feat. AFRA(Skit)
今回はミディアム曲が多いので、ちょっとスパイスが欲しくなってアルバム制作の終盤に制作しました。Groovilllageも立ち上がったので、歌詞は「私の村へようこそ」みたいな内容。AFRAくんはプライベートでも交流があって、年間でいちばん顔を合わせてるアーティスト。レコーディングのときは、彼が口で出す、本物かと思うようなパーカッションの音にホンマに驚きました。
ねむれない夜
前作の「That’s my blues song」でもやった三連のソウルバラードをまたやってみようと。遠くにいてなかなか会えない好きな人を想う歌。相手の気持ちがどうこうというよりも、自分の感情が高まっている感じ、相手のことが愛しくて愛しくてたまらないっていう感じを出したかったんです。Nodatinの間奏のギターもイキきらない「んんーっ」って感じがたまらない(笑)。
Family
去年のツアーでHOME GROWNを紹介するときに即興で出たメロディーをそのままサビにして、彼らと一緒に歌にしました。歌詞は私の周りにいる人たち……HOME GROWNもそうだし、自分の家族とか友達に向けたラブソング。自分の感謝の気持ちをアルバムの最後に置こうと思ったんですよね。
猪又 孝(DO THE MONKEY)